設計用入力地震動の考え方と作成プロセス|地盤条件を設計にどう反映するか?

地震動解析の専門家が、設計用入力地震動について分かりやすく解説します!

2026年5月25日更新

建築物の耐震設計において、「設計用入力地震動をどう設定するか」は、設計の妥当性を左右する重要な要素です。判断を誤ると、建物の安全性評価にも影響を及ぼす可能性があります。しかし設計用入力地震動の選択として、「告示波だけでよいのか」「サイト波はどのように設定すべきか」といった点に悩む場面も少なくありません。特に、計画地の地盤条件によって地震動の特性が大きく変わるため、適切な設定には専門的な理解が求められます。
地震による地盤の揺れ方には、ゆっくりと大きく揺れる長周期地震動や、瞬間的に大きな揺れが生じるパルス的な地震動など、さまざまな特徴があります。近年発生した2011年東北地方太平洋沖地震では長周期地震動が、2016年熊本地震では震源近傍のパルス的な地震動が注目されました。さらに、同じ地震であっても、地域や地盤条件によって揺れの大きさや性質は大きく異なります。
建築物の耐震設計に用いる設計用入力地震動を精度よく設定するためには、震源特性・伝播経路特性に加え、計画地の地盤増幅特性を適切に評価することが重要です。そこで本コラムでは、設計用入力地震動の基本的な考え方、種類、サイト波作成の流れについて、実務のイメージがつかめるよう、分かりやすく解説します。

目次


1.設計用入力地震動とは

地震が発生した際、地盤に生じる揺れを「地震動」と言います。
設計用入力地震動とは、建築物の耐震設計に用いる地震動のことです。構造設計の分野では、「模擬地震動」と呼ばれることもあります。
高さ60mを超える超高層建築物や免震建築物※などでは、時刻歴応答解析により、地震時の建物の挙動や損傷状態、安全性を検証することが求められており、その際、「設計用入力地震動」を使用します。
一般に、設計用入力地震動は、工学的基盤面で設定した地震動をもとに、表層地盤の地震応答解析を行い、基礎底面(基礎床付け面)や地表面等で評価されます。
ここで重要となるのが、「工学的基盤面」の設定です。工学的基盤面は、S波速度400m/s以上の硬質な地盤が5m以上連続する層を目安に設定されます。設計用入力地震動の作成では、この基盤面をどの深度に設定するかにより、その上にある表層地盤の増幅特性が大きく変わります。そのため、地盤調査結果を踏まえて慎重に決定する必要があります(図1参照)。例えば、同じ地震であっても、硬い地盤では揺れが小さく、軟弱な地盤では揺れが増幅されることがあります。
このように、地盤条件による違いを適切に評価した設計用入力地震動を作成することは、建築物の安全性を高めるうえで重要です。

※免震建築物には、告示免震と呼ばれる時刻歴応答解析を行わない構造計算の方法もあります



図1 工学的基盤・基礎底面の概要
図1 工学的基盤・基礎底面の概要



2.設計用入力地震動の種類

設計用入力地震動は、大きく分けて「サイト波」「告示波」「観測波」の3種類に分類されます。以下に、それぞれの特徴を整理します。

①サイト波:場所ごとに作る計画地固有の地震動

サイト波とは、計画地ごとの地震環境や地盤特性を反映して作成する地震動です。まず、過去の地震被害や活断層・海溝型地震等の分布および長期評価を踏まえ、計画地において影響の大きい想定地震を選定します。次に、震源断層の破壊過程から計画地の地盤増幅特性までを適切に評価できる計算手法を選び、地震動を作成します。そのため、サイト波は、計画地で将来起こり得る揺れを想定した地震動であり、立地条件に応じた設計を行ううえで重要な役割を担います(図2参照)。

図2 地震動の成り立ち(震源・伝播・地盤の影響)
図2 設計用入力地震動計算のための地下構造と地震波伝播の概要


②告示波:基準として利用する標準的な地震動

告示波とは、平成12年建設省告示1461号に基づき定められた、標準的な地震動です。解放工学的基盤における応答スペクトルに適合するように設定されており、時刻歴応答解析において広く用いられています。地震動のレベルには、「極めて稀に発生する地震動」と「稀に発生する地震動」の2種類があります。さらに、地域ごとの地震地域係数によって大きさが調整されます。なお、告示波は、計画地の工学的基盤から地表までの増幅特性は評価されますが、サイト波のように地域の地震環境を反映した地震動ではありません。


③ 観測波:過去の地震観測記録の振幅を調整した地震動

観測波とは、過去に観測された地震記録をもとに、振幅を調整して用いる地震動です。代表的な観測波として、エルセントロ波、タフト波、八戸波などが知られており、これらは地震記録が稀少な時代から耐震設計に利用されてきました。現在では、①サイト波や②告示波の応答解析結果との比較・検証のために用いられることが一般的です。

なお、①サイト波と②告示波は、いずれも工学的基盤面における模擬地震動を作成し、表層地盤の地震応答解析を行うことで、基礎底面における設計用入力地震動を求めるという形が一般的となっています(図1参照)。


3.サイト波作成の流れ

計画地の地盤増幅特性を反映したサイト波を作成するための流れを、4つのステップに分けて紹介します(図3参照)。サイト波の作成は、単に計算を行うだけでなく、地盤条件や地震環境を踏まえて適切にモデル化・評価を行うことが重要です。

図3 サイト波作成の流れ
図3 サイト波作成の流れ



①地盤調査/地盤モデルの作成

まず、地表から地震基盤(一般にS波速度3000m/s程度以上の堅固な岩盤)までの地盤構造をモデル化します。
表層地盤(地表から工学的基盤面まで)については、ボーリング調査による柱状図やPS検層の結果などを用いて設定します。一方で、深部地盤(工学的地盤から地震基盤まで)については、既往文献や常時微動測定の解析結果を用いて推定します。
地盤モデルの設定によって増幅特性が大きく変わるため、調査データをもとに適切に地盤をモデル化することが、精度の良いサイト波を作成するのに重要となります。


②地震環境の整理/想定地震の選定

次に、計画地周辺で想定される地震を調査し、計画地への影響を整理します。過去の被害地震や活断層、海溝型地震の分布、国や地方自治体が公表している想定地震などをもとに、計画地にとって影響の大きい地震を抽出します。
想定地震によって、得られる地震動の特性は大きく変わるため、計画地で想定される地震を適切に選定することが重要です。その際、簡易手法を用いて想定される地震動レベルを比較し、サイト波を作成する想定地震を選定します。


③ 工学的基盤面における地震動の作成

②で選定した想定地震に基づき、工学的基盤面における模擬地震動を作成します。 計算手法は、想定地震のタイプ(活断層地震や海溝型地震やなど)に応じて、震源特性や伝播経路特性を適切に評価できる手法を選択します。
この段階では、地震動の特性(長周期地震動やパルス的な地震動など)をどのように再現するかが重要であり、設定する条件や手法によって結果が大きく変わるため、専門的な判断が求められます。


④表層地盤の地震応答解析

最後に、工学的基盤面で作成した模擬地震動を入力として、表層地盤の地震応答解析を実施し、基礎底面や地表面における設計用入力地震動を作成します。地盤は、非線形化により剛性や減衰特性が変化するため、特に軟弱地盤では、入力地震動の大きさに応じて地盤の応答が大きく変わる可能性があります。よって、地盤条件に応じた適切な解析手法の選択が必要です。
また、地盤調査結果で液状化が懸念される場合は、液状化に伴って地盤変位が大きくなり、杭基礎に及ぼす影響も大きくなる可能性があります。よって、有効応力解析を実施し、地盤変位を適切に評価することが重要です。


4.まとめ

本コラムでは、設計用入力地震動の基本的な考え方から種類、サイト波作成の流れについて解説しました。設計用入力地震動は、建築物の耐震設計における前提条件となる重要な要素であり、その設定の違いが、建物の安全性評価に大きく影響します。特に、計画地の地盤条件により地震動の特性は大きく変化するため、適切な地盤モデルの設定や解析手法の選定が重要となります。また、サイト波を作成する想定地震の選定や、工学的基盤面の設定など、各段階における判断によって結果が大きく変わる点にも留意が必要です。
このように、設計用入力地震動の設定には、複数の要素が関係し、それぞれに専門的な検討が求められます。そのため、「どの地震動を採用すべきか」「地盤条件をどのように反映すべきか」といった判断に迷う場面も少なくありません。
設計の前提となる地震動をどのように捉えるかが、その後の設計全体の妥当性を左右する重要なポイントになります。

参考文献
・日本建築学会:最新の地盤震動研究を生かした強震波形の作成法、2009.
・福和伸夫・飛田潤・平井敬:耐震工学 教養から基礎・応用へ、2019.
・日本免震構造協会:免震建築物のための設計用入力地震動作成ガイドライン(第3版)、2022.




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設計用入力地震動の作成

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